No.015
[ 曇 天 ]


Scene11


望の回想。

俊子、三ヶ日登場。


5年前、私は丁度、社会に出たばかりだった。その頃私は1人の男性に恋をしていた。で も、自分の見た目に自信のない私は、ただ密かに思いを募らせる事しか出来なかった。で もある時、彼のお店に行くと、彼はいつも通りの笑顔で迎えてくれ、そして一言こう言った。

三ヶ日
いつもありがとうございます。あ、それから、誕生日おめでとう。


もしかしてそれ、ホストとかそう言うのか?

三ヶ日
うぅん、ただの美容師さん。いつも行く美容院の人だったの。


あ、そうか。


もう私は、彼が私の誕生日を覚えててくれたんだと思い込んでしまって、カット中もカラ ー中もドキドキし通し、オマケに

三ヶ日
今日はこれ、プレゼントだよ。


と素敵な紙袋を手渡してくれたの。袋の中には、彼がチョイスしたシャンプーとコンディ ショナーが入ってたの!


それってただのサービスじゃ。誕生日も最初に書いたりして


そうかも知れない。でもそれまでトシ兄そっくりで、男の子に優しくしてもらったことが ない私は、ものすごく嬉しくて、舞い上がっちゃって、ものすごい勘違いをしてしまったの。


勘違い?


彼が、私の事を好きなんだって。


え?


そして私は思い切って「良かったら、ケータイのアドレス交換して下さい」って言ってし まった。

三ヶ日
え?


「あ、ダメなら番号でも、いや住所でも、血液型でも両親の名前でも何でも良いです。」 なんて言ってしまったの。すると彼は

三ヶ日
あの、ごめんなさい。僕、人を見た目で判断するタイプの人間なんだ。


と言い放った。でも私は、その意味を全く理解出来ずに「じゃあ、付き合って下さい」と 言ってしまった。


えっ!?


彼は唖然として、少しだけ間を置いて、すごく丁寧に、ゆっくりと

三ヶ日
二度とそんな事言わないでね。ぶさいくちゃん。


と笑顔で返したの。

2人去る。


酷すぎる。そんなヤツが娘の彼氏だったら、オレがクビをへし折ってやる。


しかもレシートを見ると、ちょっとだけ割り引いたシャンプーとコンディショナーの料金 もちゃっかり入っていたの。


プレゼントじゃないじゃないか。


私はショックだった。何よりも自分の顔が許せなかった。そして私は、咲間家を出ること にしたの。私にウリ2つの兄から離れ、この顔と決別するために!

テロップ準備。


私は家族に何も言わず、最低限の荷物を持って東京に行き、小さなアパートを借りた。そ して私はすぐに整形手術を受ける為に病院を探した。高校の時からバイトでコツコツ貯め ていた貯金をはたいたのに、出来たのは鼻を小さく出来ただけだった。私はそれで満足す るはずもなく、顔を隠してがむしゃらに働いた。
働いては手術、働いては手術をくり返し ていった。少しずつ、私の顔は理想に近づいていった。でも時には失敗する事もあった。
そうして1年半、私は12回の整形をくり返し、「望」として生まれ変わって、新たな人生を歩み出したの。

テロップ終了。


顔が変わった私は自分の顔に自信を持ち、学生時代に憧れていた塾講師になった。そこは 地域の有名進学塾。私はバリバリの熱血理科講師を気取った。

ジャージを羽織る。


H2Oは水!ロケットじゃない!!バカモンがぁ。はぁ?光合成と高校生は違う!女子光 合成ってなんなんだ?立ってろ!

マッチョ先生登場。

マッチョ
望先生。今日もバリバリやってますなぁ。


はい。子どもはバリバリやらないとダメですからねぇ。

マッチョ
僕は、そんな、望先生が好きだ。


え?

マッチョ
好きだ好きだ好きだ!


そ、そんな急に。

マッチョ
バリバリ好きだろ?


はい。

マッチョ
僕もバリバリ好きだろ?だから、好きだ!


私も・・・好き!!

マッチョ
望先生!!


私たちは愛し合い、すぐに子どもが出来た。でも彼には、離婚調停中の奥さんがいた。
私はそれでも良かった。むしろ好都合だった。結婚をしなければ、戸籍を知られることもな い。顔も名前も変えている本当の私を、彼が受け入れてくれるはずがない。私は子どもを 産んだ。おまけにもう1人産んだ。そうして5年の月日が流れた。

ちょっと老けたマッチョ。

マッチョ
望、どういう事なんだ?


なに?

マッチョ
君は、俊子という名前なのか?


え?

マッチョ
これを見たんだ。


それは、私の免許証とパスポートだった。パスポートは古い顔のまま、そして免許証は書 き換えに行ったばかりの今の顔だった。

マッチョ
オマケに顔まで違うじゃないか。今まで、オレを騙していたのか?


違う。

マッチョ
ちゃんとキミと、籍入れようと思っていたのに。


でも、私は、ちゃんと私で・・・・

マッチョ
出て行け!今すぐ全速力で走って出て行け!


ちくしょー。

マッチョ
なんだ?


あんたも私の見てくれしか見てくれないのか!

マッチョ
見てくれ変えたヤツが何を言うんだ!


・・・・ちくしょー!

マッチョ去る。


で、今。


それ、本当か?


うん、ほとんど。


全部じゃないのか?


だいぶはしょったからねぇ。


そ、そうか。


ゴメンねお父さん。今まで心配かけて。


いや、オレこそごめん。お前の事、何にも気づいてやれなくて。


うぅん、私が勝手なだけ。


良かったら、家に来てくれないか?みんな揃ってるんだ。


知ってる。


そうだったな。


私は、お母さんを演じればいいの?


あぁ、頼むよ。

-----暗転。

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