No.012
[A day in the Life]


Episode02
[殿山医院]


殿山医院の診察室。

若旦那が座っている。


若旦那
『若旦那』は小学生の時からの僕のあだ名だった。
僕、若山ゆうすけは、父親が経営するコロッケ屋の跡継ぎとされている。
されている、と言っても、父親がそれを望んでいるわけではない。勝手にそう皆が言っているだけだ。父は人の良い人間で、祖父が始めた近所で評判のコロッケ屋の後を、言われるがままに継いだ。
僕は別にその仕事を継ぐつもりはない。けれど、僕には父の人の良さを継いでしまっている。

人が良いのは、考えようによっては、悪い癖だ。僕は、また言えなかった。一体いつ、話せるんだろうか。

ユキヒコがやってくる。

ユキヒコ
あぁ、ごめんなさいね、待たせちゃって。それで、何かが聞こえるって?

若旦那
あ、はい。

ユキヒコ
幻聴みたいな感じですか?

若旦那
いや、なんて言うか、もっとハッキリした感じの声で。

ユキヒコ
へぇ、どんな感じで?

若旦那
頭のこの辺りというか、正に自分自身が話してるような感じで。カラダ全体から聞こえる感じでした。

ユキヒコ
それは自分の声で?

若旦那
いえ、女の子です。

ユキヒコ
女の子?聞き覚えある感じですか?

若旦那
ないです。

ユキヒコ
全然?

若旦那
はい、まったく。

ユキヒコ
ずっと続いてるんですか?

若旦那
いや、一時的なモノでしたけど。

ユキヒコ
んー、一応ね、検査は何にも出ませんでしたよ。疲れが原因という、場合もありますけど。また同じ様な症状が出るようでしたら、また来てもらえますか?何でしたら市内の大きな病院もご紹介出来ますから。

若旦那
はぁ。

ユキヒコ
あんまり深く考えない方がいいですよ。私も昔、父の声が聞こえた事が何度かあります。医者が言うのもなんですけどね。

若旦那
お父さんが?

ユキヒコ
えぇ、私、あまり経験を積めずにココを継いだものですから何かと不安で。町の病院はここだけでしょ。
あ、今は大丈夫ですから。まぁ、でも元々腕には自信あるんですよ。

若旦那
そうですか。お父さんも、先生の事を気にかけてる事と思いますよ。

ユキヒコ
どうでしょう、すっかり忘れて第2の人生を生きていると思いますよ。

若旦那
え?第2の人生?

ユキヒコ
えぇ、ここの看護婦と再婚して、その看護婦の実家の島に行きました。

若旦那
島、ですか?

ユキヒコ
えぇ、おかしい人でしょ。オレはあの島のDr.コトーになる!と言ってました。今では、年に一度、残暑見舞いだけが届きます。
あ、すいません、関係ない話しちゃって。まぁ、生きてる人間の声が聞こえる事もあるんですから、それほど気にする事もないって、言いたかったんですよ。

若旦那
はぁ。

ユキヒコ
何か悩み事ありますか?

若旦那
え?

ユキヒコ
ありますよね、誰だって。そういうものなんですから、人間というのは。悩みながら、みんな生きてるんですよ。

若旦那
そうですよね。

どこからか呼ばれるユキヒコ。

ユキヒコ
え?あ、はいはい。じゃあ、いつでも来てくださいね。

若旦那
あ、ありがとうございました。

足早に去るユキヒコ。
ゆっくり出ていく若旦那。

----暗転。


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