No.011
[始マリノ終ワリ]


Episode02
Flower

花音の『平穏無事こそ我が人生』。





【Episode02】




【花音】




【時ノ始マリ】




花音の姿が浮かび上がる。

花音
私は、小さな頃からお花が好きだった。花の音と書いて「カノン」と読ませる私の名前は、地元ではちょっと有名な華道教室の先生がつけてくれた名前だ。我ながら結構気に入っている。バラやコスモスみたいに華やかだったり、小さくて可愛かったりするのも好きだけど、私はとりわけガーベラが好き。特に赤とオレンジのあいだくらいの暑い色のヤツが好き。
ガーベラは「小さな子どもが描いた様な花」そのものの姿をしている。なんだかとってもわかりやすい顔をしている。私はそれが、たまらなく好き。それで私は、自然にお花に関わる仕事に就きたくて、ズバリそのままお花屋さんになった。地元でもマイナーな短大しか出ていないのに、私はラッキーな事にそう小さくはない直営で店舗をいくつか出している企業に入社することが出来た。更にちょっと頑張ってみたら、入社5年目からは新店舗の店長になり、今年でその店長も2年目に入る。
私の生活は順調で、安定している。残念ながら仕事を頑張りすぎて、彼氏は長続きしない。毎朝4時に起きては仕入れに行く毎日ではナカナカ難しいようだ。
まぁ、それは別に気にしていない。
タイミングとか運とかそういうのだと思うし。そこまでハマれる恋愛も最近してないし。

と、空が現れる。


店長。

花音
え?何?


何って、どうかしたんですか?さっきから呼んでたんですけど。

花音
そうだった?


はい。何だか雨降ってきそうじゃないですか。外に出してある鉢植え入れます?

花音
そう?降ってきそう?予報は1日くもりだったけど。


そうですかぁ?でも僕のカン当たるんですよ。

花音
あ、そうか、ソラくん、天気予報だけは結構あたるのよね。


えぇ、そうですよ。ソラだけに。

花音
他に特技はナイの?


なんですか、その言い方。僕がイイトコナシみたいじゃないですか。

花音
まぁ、断言まではしないけど、近いところはあるのかも。


えーそんなぁ。僕最近、絵とか歌とか詩とか始めたんですよ。

花音
へぇ、なんだか節操なしねぇ。


一曲歌いましょうか?僕の作詞作曲なんですよ。

花音
別にいいけど。


いいって、喜んでって事ですか?

花音
いや、いらないって事。


そんな事言わないで下さいよぉ。毎日に疲れた花音さんに贈ります。

花音
なんて曲?


「ほくろの歌」です。

花音
うんいいや。また今度にする。もっと疲れそうだし。


えぇ〜花音さん〜聞いて下さいよぉ〜。

花音
元気になれるの?


えぇ、多分。

花音
それならいいけど。


じゃあウクレレ持ってきますね!(と裏に入る)

花音
え・・・ウクレレ・・・?って言うか、雨降るんなら早く鉢植え入れてよね・・・。

と、言いながら、鉢植えをしまい始める。

ふと店の前に目をやり、何かに気づく。

花音
あ・・・そうだ、何だか最近おかしいと思ってた。何がおかしいかが良くわかんなかったけど、今、少しわかった。お店の周りの景色だ。私はこの店舗にもう3年いる。休みの日以外は、毎日毎日、朝早くここに来ている。その、毎日毎日同じ場所に来ている訳だから、毎日毎日同じ景色を見ているはずだったけど、実はそれほど、周りの景色なんて見てなくて、全然その変化に気づいていなかったんだ。

空がウクレレを持って現れる。


どうしたんですか?

花音
何だか怖いよね、知らなかったなんて。こんなにすぐ側の事なのに。


へ?

花音
ねぇ、ソラくん、あそこの居酒屋、いつから閉まってた?


え?僕が来た時から閉まってましたよ。

花音
2週間前から?


はい。

花音
あの路肩の植え込み、いつからあんなにキレイになってた?


あ、アレはおとつい業者の人が来てやってましたよ。花音さんもいましたよね?

花音
いやぁ、全然気づかなかったのよ、私。毎日、ココから見てたはずだったのに。


あぁ、そう言う事ってよくありますよ。

花音
そうかな?


えぇ、知らないウチに変わってる事って沢山ありますよ。身近なのに、特別深く関わってないと、結構気づかないモノですよ。

花音
そか、そういうものか。


僕だって、ついこないだココんとこずっと納豆つけて過ごしてましたよ。正に灯台下暗しってやつで。

花音
ちゃんと鏡みなよ。


すっすす、すいません。

花音
あ、鉢植え入れといてね。私ちょっと本部に電話してくるから。


あ、はい。え?僕の「ほくろの歌」は?

花音
後で聞くから。


絶対ですよ!花音さんバージョンで歌いますからね。

花音
あ、サビちょっと聞いていい?


簡単に覚えちゃいますよ!「ほくろ、ほくろ、ほくろ・・・♪」

花音
うん、わかった。ちょっと電話長くなるから。


えーっ。

と、奥に入る花音。

鉢植えを片づける空。
と、男が現れる。



すいません。


あ、はい。いらっしゃいませ!


ガーベラを、2本下さい。


ガーベラですね。他はよろしかったですか?


はい。お願いします。


これだけだと、ちょっと寂しくなっちゃいますけど。


大丈夫です。


わかりました。はいどうぞ。500円です。


これ、明日までもちますか?


えぇ、もちろん。一回お水あげてくださいね。


わかりました。どうも。

男、去る。
入れ替わりで花音が帰ってくる。


花音
今お客さんいた?


はい。

花音
そう。大丈夫だった?


もちろん。もう2週間ですから。

花音
そっか。鉢植え、ありがと。


えぇ。ではでは、1曲お聞かせしましょう。

花音
あ、そうだったわね。どうぞ・・・。

「ほくろの歌」を歌い始める空。

歌は聞こえなくなり、花音だけにライトがあたる。


花音
はぁ・・・なんかウザイ。この子は何で歌ってるんだろう?一体誰の影響?それで何か得があるって言うの??私は、こうやって、自分を褒めてくれと言わんばかりに「自己主張する若者」が嫌いだ。こんな中途半端なフリーターが多いから、日本はダメになってるんだ。そう思っている。好きな事だけをやって、嫌な事から逃げ出している若者達。君たちは「嫌な事に耐える」という感覚が欠如している。それにそろそろ気づくべきだよ。はぁ・・。

嫌な事は必ずいつかは通り過ぎる。そう悟ったのは小学校でのプールの授業だ。私はプール以前に、そもそも水が苦手だった。洗面器にはった水にさえ、顔を付けるのも嫌いだった。それなのにあのシャワーというモノは何だ。容赦なく降り注ぐ大粒の水滴。もうアレはシャワーじゃない、ほとんど放水、子どもへの虐待そのものだ。

と、教師が現れる。

教師
ホラそこ、ぼさっとつったってないで、さっさと後ろにならばんかい。プールに入れたらんぞー。

花音
それでいいんですけど。私は別にそれで全然構いません。

教師
最期の班、順番きとるぞ、お前だけシャワー浴びる練習にするぞ。

花音
それは最悪だ。とんでもない。

教師
おいカノン、きいとんのか〜?

花音
はーい!聞いてます、すぐに並びます。

「ザー」というシャワーの音。

花音
うーわー。今日はまた最高に土砂ぶりだわ。こんな時はやっぱり、できるだけ隅っこへひゃーちべたい。

と、隅の方へ横になって入る。

教師
よーし、みんな入ったかぁ?

花音
はーい・・・。

教師
10秒数えるぞぉ。1,2,3,4,5,6,なーな、はーち・・・

花音
何でココでスローモーションだ。バカかお前。ホントお前禿げろ!すぐ禿げろ!一瞬で禿げろ!!

教師
カノンどうしたー?お前ちゃんと入ってるかぁ??

花音
禿げってまーす。

教師
は?

花音
は、入ってまーす!

教師
よーし、んじゃ、きゅーう、じゅう!はい、出てよーし。(とシャワーを止める) 花音
ぷはー。

教師
はい次、消毒槽入れー!

と言って教師は消える。

花音
でも、そんなシャワーのおかげでどんなに嫌な事も、耐えればいつかは過ぎ去る、という事を学んだ。忍耐強さを得た私は、結構物事をうまくこなせるようになった。そう思うとあの先生の、あのプールの授業のおかげ。でも先生は、私が毎年「すぐに禿げろ!」と呪い続けたせいか、私が小学校を卒業すると、あっという間に禿げてしまった。

「ザー」と雨音がする。

花音
あ・・・。


ほらぁ、やっぱり降ってきたでしょお。僕のカン当たるんですから。

花音
すごいね、ソラくんのカン。


いや、ひょっとしたら、僕の歌に感動して。

花音
あ、そろそろ私帰るから。あとよろしくね。


今日は早上がりなんですか?閉店作業は??僕1人じゃ、

花音
本部から鵜飼さんくるから大丈夫。


本部の人来るんですか?なんだか緊張するなぁ。

花音
鵜飼さん、お天気の事とか詳しいし、ソラくんと気が合うと思うよ。あ、ガーベラ2本包んでくれる?


え?

花音
お金はちゃんと払うわよ。


あ、はい。

花音
どうしたの?


たまたま、さっきのお客さんと一緒だったんで。

花音
ガーベラ買ってったの?別にそんなに珍しくないじゃない。


そうですよね。あ、はい。

花音
ありがと。鵜飼さんによろしく。

と、傘をさして出ていく花音。
マナブが現れる。



いらっしゃいませ!

マナブ
すいません。ガーベラを2本ください。


え、あ、はい。

舞台は一時暗くなり、場面は変わる。

歩いている花音。


花音
明日はアイルの命日だ。アイルは私の高校時代の友人。大学を中退して、カメラマンになったんだけど、事故にあって死んでしまった。事故、と言うか、ひき逃げだ。そして犯人はまだ捕まっていない。明日はお休みを取って、アイルのお参りに行く。私とアイルが好きな、ガーベラを持って。

私は平穏が好き。何事も平穏無事な人生は、案外難しいことなんだとわかっている。普通に暮らしている人は、普通に暮らそうとしているわけではないことが多い。イロイロ欲とかありながら、がんばってきて、それで結構普通の生活なのだ。だから私は、がんばって平穏に生きる。それが私が生きる道なのである。

ドアを開け、家に入る。

----暗転。





【私は平穏が好き】





【平穏無事な人生こそ】




【私の道なのだ】





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