No.010
[ Cried for the Moon ]


Scene∞

[2日前。]





【2日前】




【2025年9月5日】




【午後8時】




月が美しく輝いている。

イスに座っているモモ。
アキラが現れる。


モモ
どうぞ。そこにかけて下さい。初めまして、私、田島モモといいます。

アキラ
悪いわね。終わってるのに。

モモ
構いませんよ。帰ってもどうせ1人ですから。

アキラ
・・・・。

モモ
緊張してますか?リラックスして下さいね。

アキラ
そんなことないわ。大丈夫。

モモ
そう。私は医師ではありません。だから、カルテも診断もありません。私はただ、あなたとお話をするだけです。

アキラ
私、宇宙開発局で、月開発事業を担当しています、如月アキラです。

モモ
若いのにスゴイですね。宇宙開発局の月事業といったら、今や日本の花形ですよね。

アキラ
えぇ。でもあなただってそう変わらないでしょ。若いのに、政治家のお偉い方御用達のカウンセリングルームに勤務しているじゃない。

モモ
私の場合はたまたま運が良くて。

アキラ
ねぇ、自分よりもずっと年上の人に何が言えるの?おこがましくない?

モモ
そうね。でも、私は話を聞くだけ。で、ちょっと思ったことを話すの。それだけなら年齢は関係ないでしょ。

アキラ
ぇ、いい仕事ね。

モモ
でしょ。

アキラ
では、率直に話を聞いて貰うわ。

モモ
どうぞ。

アキラ
・・・大切な人を失う時、どうすればいいと思う?

モモ
どうすれば?難しい質問ね。

アキラ
そう、難しい質問よ。

モモ
私なら、ふさぎ込んじゃうかな。

アキラ
え?

モモ
だって、悲しいじゃない。フツウ誰だってそうなるよね。

アキラ
そんな当たり前なことを聞きに来たんじゃないわ。

モモ
だって、そうなって当たり前なんだもの。大切な人を失うんでしょ。

アキラ
・・・・・帰るわ。

モモ
でも、私はずっと、ふさぎ込んだりはしないわ。

アキラ
どうして?

モモ
だって、その、「大切な人」が喜んでくれないでしょ。

アキラ
え?

モモ
自分だって、自分を大切に思ってくれる人が、自分のせいでふさぎ込んでしまったらイヤでしょ。

アキラ
そうね。

モモ
・・・脳における「哀しみ」の感情はいずれ薄れていくそうよ。知ってる?

アキラ
どうして?

モモ
ずっとふさぎ込んでしまったら、生きていけないでしょ。

アキラ
そうだけど。

モモ
だから、大きな「悲しみ」を感じてしまったとき少しずつその感情を減らしていって、代わりに脳はある記憶を呼び起こすの。

アキラ
思い出?

モモ
そう。悲しみの奥に隠れている、その人との楽しい思い出。それを鮮明に思い出して、また、その人の歴史を自分の歴史に刻んでいくの。始まりがあれば、必ず終わりがあるでしょ。それは今も昔も変わらない
。人は、ゆっくりとつらいことを乗り越えていくものなの。

アキラ
・・・ずいぶん上手に話すのね。こんな話は多い?

モモ
私自身、小さいときにお父さんを亡くしているの。

アキラ
・・・・・そう。ごめんなさいね。なんか、くってかかっちゃって。

モモ
構いませんよ。私もちょっと個人的な意見を言いすぎた気がしますから。

アキラ
私にとって、大切な人はね、人間ではないの。

モモ
え?じゃあ何なんですか?

アキラ
・・・・あの、月よ。

2人、微笑みながら月を仰ぎ見る。

-----月が消える。



・・・・end



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