No.010
[ Cried for the Moon ]


Scene03

[月野ヒカルの苦悩。]


入れ替わりに電話をしながら入ってくるヒカル。

ヒカル
え?ストップって?鵜飼さん、ど、どういうことなんですか?え?いわゆる打ち切り?でも、まだ2ヶ月ですよ。月刊誌で2ヶ月って、もう少し待ってくださいよぉ。どどど、どうしてなんですか?僕のマンガに何が足らないんですか?
・・・・はぁ??エ、エさが足らない!?オ、オレの絵を、ストーリーをちゃんと見てるのか!!オレの描くエロは芸術だ!芸術なんだ!!オレの描く女のボディラインをちゃんと見てるのか!?オレのマンガは低俗なエッチマンガとは違うんだ!エグさ もカラミも一切ない、芸術的エロマンガなんだぁ!!あぁ!エロマンガ万歳!!・・・え?あ?もしもし?・・・またやっちゃったよぉ・・・はぁあ・・・

と、上嶋が入ってくる。

上嶋
どうしました、先生。

ヒカル
上嶋さん、やっちゃいました。ホントすいません、唯一の連載を打ち切られちゃいました。

上嶋
それは残念でしたねぇ。でもまた頑張って連載とりましょうよ、先生。私応援していますから。

ヒカル
ありがとうございます。でも上嶋さん、何で僕のアシスタントなんてしてくれるんですか?

上嶋
先月、職を後任に譲りまして、第二の人生も誰かのお役に立てることを続けたかったんですよ。

ヒカル
へぇ、前もマンガ家のアシスタントやってたんですか?

上嶋
いえいえ、前はマンガ家ではなく政治家でした。

ヒカル
政治家?なに冗談言ってるんですか。僕はよりによって売れないエロマンガ家ですよぉ。どうして政治家の下で働いてた人が

上嶋
先生はこれからの人なんです。応援させて下さい。

ヒカル
そういっていただけると嬉しいですけど。でもやっぱり、キスまでしか進展しないエロマンガなんてダメですかねぇ。

上嶋
いえいえそんな事はございません。先生のマンガには芸術を感じます。この老いぼれに何か熱いものを感じさせました。先生のマンガを読んでいくうちに、こう、体の奥底に眠る熱いモノがこみ上げ、この老人の何かを奮い立たせたのです!!

ヒカル
そうですかそうですか、感じていただけましたか!!オレの描くエロは絶大なんです芸術なんです!この世の中にエロが氾濫する今、人は欲望におぼれ自分本位で低俗なエロを生み出してる!しかしオレのエロマンガは違う!

上嶋
そうです、先生の描くマンガにはキャラクターの視線や指先の動き一つ一つにさえ、人のココロの本質を感じさせます。そしてソレに十分にエロスを感じます。

ヒカル
そうだ!オレのエロマンガは生きるモノの躍動感とはかなさ、そして美しさを同時に描き、それはまさに芸術的エロマンガとして昇華されているのだ!

2人
あぁ!エロマンガ万歳!!

上嶋
あぁ、生きてて良かったぁ・・・。

ヒカル
上嶋さん、僕頑張ります。まだまだ死なないで下さい。

上嶋
えぇ、先生が世に出るまでこの老いぼれ死ねません。私に出来ることがあれば何なりとお申し付け下さい。

ヒカル
はい。でも上嶋さん、手が震えちゃってて、ベタ塗りはみだしちゃうんだよねぇ。

上嶋
すす、すいません!もしや、先程の打ち切りはそれが原因で!?先生、死んでお詫びいたします!!!

ヒカル
ちょちょ、ちょっと!今僕が世に出るまで死ねないって言ったばっかりじゃないですか。そっこー死なないで下さい。縁起でもないっ!

上嶋
と、取り乱してしまい、失礼しました。

ヒカル
上嶋さん、僕、明日早速持ち込み行って来ます。今夜は満月ですし頑張ります。

上嶋
満月と持ち込みは関係あるんですか?

ヒカル
僕、満月と新月の時には創作意欲が異常に高まるんです。

上嶋
ほぉ。

ヒカル
だから、今晩、1本や2本くらいは仕上げちゃうと思います。

上嶋
さすが先生、それは才能ですよ。

ヒカル
いいえ、コレは月のおかげなんです。それ以外の日はさっぱりですから。

上嶋
先生は月がお好きなんですねぇ。ペンネームも月野ヒカルですしね。

ヒカル
えぇ、月にはイロイロと思い入れがありまして。

上嶋
そうなんですか。月といえば先生、月博にはいかれましたか?

ヒカル
え?いやぁ、行きたいんですけどねぇ、お金がないので、なかなか行けないんですよぉ。

上嶋
そうでしたか。あの、先日私、総理からチケットを頂いたので、よろしければ行かれますか?

ヒカル
いいんですか?っていうか、総理って誰ですか?

上嶋
総理は総理ですよ。以前の上司です。

ヒカル
へぇ、上司の事を総理って呼んでいたんですか。じゃあ僕、大臣、とか呼んでもらおうかなぁ?

上嶋
結構ですよ。何大臣ですか?

ヒカル
え、い、何っていうか。

上嶋
色白大臣とか。

ヒカル
え?

上嶋
病弱大臣とか。

ヒカル
いや。

上嶋
そういうのですか?

ヒカル
すいません、先生って言っていただけるだけで十分です。

上嶋
じゃあ先生で。はい、先生、コレどうぞ。

ヒカル
え?これパスポートじゃないですか。すげー総理太っ腹〜♪じゃあ、これから行きませんか?

上嶋
これからですか?

ヒカル
僕、お月様出てないとダメなんですよ。だから昼間はさっぱりなんです。

上嶋
そうですか。では月博行って、今夜は満月を見ながらひと仕事頑張りますか!

ヒカル
はい!上嶋さんベタ塗りも出来ませんけどね。

上嶋
じゃあモデルでもしますか?

ヒカル
え?

上嶋
なんなら制服だって着ますよ。OLや看護婦さんだって。

ヒカル
気持ち悪い事言わないでくださいよ。

上嶋
私のココロは死ぬまでハタチですよ。

とかなんとか言いながら出て行く。

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