No.009
[ 20 till I die ]


Scene10

[アキラの時。]


トモ
私は言えなかった。
本当の事を言えなかった。
私が、姉、キョウコの代わりにアキラくんと電話していたことを。姉はあの時言った「適当に話しといて」と。「適当に」と。姉はアキラくんのことを真剣に受け止めていなかった。はじめにアキラくんが私を姉と勘違いしてしまってから、おかしくなってしまった。私はちゃんと話をするはずだった。
なのに、アキラくんは、それを認めないかの様に、姉の代わりをしている私に電話をかけてきた。姉が結婚した後も、私は姉のフリを続けた。でもそれも1ヶ月すると限界がきた。逢うことをアキラくんが求めてきたから。彼も現実を確認したかったのかも知れない。私は逢って、正直に話をしようと思った。そして、1997年の3月28日に私たちは逢うことを約束した。そして、その日がやってきた。でも、アキラくんは現れなかった。私は、彼が現実を受け止めたのだと思っていた。しかし、それはその逆だった。彼はその夜になると、前日に話した内容と同じ内容の電話をしてきた。おかしいと思ったが、ほとんど毎日、同じ電話をかけてきた。私がなんと言おうと、たとえ出ない日があろうと。毎日、同じ話をするために。彼の時は完全に止まっていた。私はどうすることも出来なかった。
そうして、私は姉のキョウコとして毎日彼と話すのが、日課になっていった。

アキラの背に立つトモ。

トモ
やっと逢えたね、花村くん。私よ、わかる?

アキラ
・・・キョウコさん?

トモ
うん。ごめんね。結婚すること、話せなくて。

アキラ
うぅん。ボクは、キョウコさんから聞きたかったんだ。本当の事を。

トモ
私、花村くんの事、裏切っちゃったよね。混乱させちゃったよね。

アキラ
・・・大丈夫、ボクは大丈夫だよ。

トモ
花村くん・・・。

アキラ
ボクは、キョウコさんが40過ぎのおばさんになっても、キョウコさんの事、好きだと思う。

トモ
ホントに?

アキラ
ホントに。

トモ
どうして?

アキラ
キョウコさんは、キョウコさんだから。

トモ
そなかなぁ?

アキラ
そうだと思う。

トモ
そうだといいな。

アキラ
うん。

トモ
今まで、ありがとね。

アキラ
こちらこそ、キョウコさんのおかげで色々がんばれたし。ありがとう。

トモ
すてきな男性になっていってね。

アキラ
うん、キョウコさんが、ボクと結婚しなかったのを後悔するぐらいの男になります。

トモ
楽しみにしてる。

アキラ
うん。

トモ
じゃあね、花村くん。

アキラ
キョウコさん・・・。

トモ
何?

アキラ
ボクは、あなたが幸せになることが、一番の幸せです。(涙声になる)

トモ
ありがとう。私も、花村くんに幸せになってほしいわ。

アキラ
頑張ります。ボク、頑張ります・・・。(泣く)

トモ
花村くん、じゃあね。

アキラ
・・・・うん。(倒れる)

暗転。

闇の中声が響く。


タエコ
お兄ちゃん!?トモさん?どういうことなの??

鮫島
まずいわ、呼吸困難を起こしてる。救急車よ!

トモ
ごめんね、タエちゃん、私が、悪いのよ。

精霊(ナマコ)
ぷにー!

トモ
ごめんなさい、アキラくん、タエちゃん・・・。

救急車のサイレン。

病院の待合室。


タエコ
先生、お兄ちゃんは、大丈夫なんですか?

鮫島
大丈夫、命に別状はないわ。

タエコ
お兄ちゃん、どうなっちゃったんですか?

鮫島
おそらく、アキラくんは、すべての事を理解していたのでしょう。キョウコさんが結婚したことも、どうして自分に話してくれなかったかということも。そして、今自分と話しているキョウコさんが偽物だと言うことも。
だから、28日に、現実を見せつけられるのを拒んだのだと思います。認めたくなかったから、時を止めてしまっていたのでしょう。多くの人には、生きていく中で、現実を認められずに、止めてしまっている時間が存在します。原因はそれぞれ、人間関係や恋愛など、様々なトラウマによります。でも、彼には、それがとても大きすぎたのでしょう。すべての時間を止めてしまうほどに。でも、もう、彼は受け入れたはずです。
これからは、少しずつ時を進めていくはずよ。

-----暗転。

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