No.008
[ ダカラ僕ハ此処ニ居ル ]


Scene07



暗闇にうっすらと青年の姿が浮かび上がる。

ユーケイ
その夜、僕が見た夢は、とても奇妙なものだった。
ふと気がつくと、まっくらな闇の中にぽかんと、ぶよぶよとしたゴムの玉のようなものが
浮かんでいた。それは、半透明の膜で出来ていて、中にはピンク色をした何かが蠢いていた。

怖くはなかった。気持ち悪くもなかった。僕はむしろ、それに懐かしさや暖かさを覚えた。そばで見るとそれは、ちょうどバスケットボールくらいの大きさをしていた。僕の胸のあたりで浮かんでいるそれは、うっすらと光を放ち、手を伸ばすと、暖かさを感じた。僕はしばらくそれの暖かさを感じながら、いつの間にか、目を閉じていた。

すると、少しも今の状態に疑問を持たず、頭に昔の事が甦ってきた。
僕は自分の記憶をたどっていった。すると、記憶はある一点でぷっつり途絶えた。幼稚園の入園式は覚えているから、3才・・・いや、2才以前の記憶が全くなかった。
そんなことは誰だってそうかも知れない。生まれてから今までの事を全て記憶している人はいないだろう。誰にそのことに疑問を持たずに今を生きている。それが当然だ。
でも、僕は不思議に思った。
2才以前も僕は何を考えていたのだろうか?2才ならもう赤ん坊じゃない。自分で歩くことも話すことも出来る。その時、何を見、何を聞き、何を考えていたのだろうか?感情だってあったはずだ。笑い、泣き、怒ったり、すねたり。-----意識があったんだ。
それなのに、僕にはその時の記憶がない・・・・・なぜだ?

その時、何かの裂けるような音がした。はっと目を開けると、目の前にあった不思議なゴムの玉の様なモノが、ガラスで切ったようにさっくりと割れていた。
動けなくなった。急に恐怖を感じた。とても恐ろしいと感じた。
さっくりと切れた割れ目からは透明な液体があふれ出て、中で蠢くピンク色をした何かが、今にも出ようとしていた。
目をつぶろうと思った。でも、もうその時には体を動かすことができず、息さえも出来なかった。
僕はただ、-------出てくるなと叫ぶ事すら出来なかった・・・。

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